Stellar Movementsの製作経緯

(長いので興味がありましたらお読みください。また挿絵は筆者が過去に描いたものでStellar Movementsとは直接関係ありません。(ロマンを表現したいだけ))

なぜ太陽系儀なのか?
これについてお答えするために、まず背景から説明していきたいと思います。

2016年当時、私は毎日職場でも自宅でもPCの画面を見つめるだけの生活をしていて、常に物足りない気がしていたのです。
いったい何が物足りないのかと真面目に考えてみたところ、結局「リアルではないから」という結論に至りました。

PCやスマートフォンの画面越しに広がる仮想世界に時折虚しさを感じるというのはときどき見かけるフレーズです。
多くの人が似たようなことを感じているのだと思いますが、リアルさというのは場合や人によって異なります。
当時の私にとってのリアルさとは「五感で感じることのできるモノ」のことでした。
つまり、玩具が欲しかったのです。

玩具と言っても、私の琴線に触れるものは何なのかより深く考えていくと
「ロマンがあるもの」、「自分の特性に合ったもの」、「今後の人生を捧げられるもの」
という感じになり、(ただの自分探しですが)
最初の2つは宇宙が好きなことと複雑なシステムが好きなことで、直ぐに太陽系儀に至りました。

Webで太陽系儀を調べてみるといくつか販売しているものがヒットしたものの、
デザインや機能・価格の面で満足のいくものがありませんでした。
ここで自作しようと考えた時、今後の人生でこれ以上自分の状況にマッチした素材が現れるような気がしなかったので、本格的に太陽系儀の製作を始めることにしたのです。

(合成画像 ©NASA)

 

次に、どのようにして現在のStellar Movementsの形になっていったかの経緯です。

太陽系儀の製作を思い立ったときの構想は、まずはロマンだということでした。
具体的には「手の平の中で太陽系が回っているような、小さな箱庭の世界があったら面白いだろうな」というものです。
これを機能・性能としての仕様に落とし込むと、小型・静音・滑らかな動き・時計のように電池駆動で1年間回り続けるもの・衛星を含む全惑星模擬ということになりました。
できるかどうかはさておき、ワクワクしながらこの仕様を達成すべく概念設計にとりかかりました。

太陽系儀として達成する方式は幾つかあります。

まずはオーソドックスな歯車式。当時この方式は最終手段でした。というのも、歯車式だと手の平に収まるほど小さく作るにはホームメイドでは不可能だろうと考えていたからです。時計の中に入っているようなサイズの適当な歯車はそもそも入手できないし、価格面からも現実的ではありませんでした。

次に電磁誘導方式。これは仕様中の「時計のように電池駆動で1年間回り続けるもの」を受けて考えてみたものです。具体的には最小の電力で動かすために「アラゴの円板」とか「電力メーター」で知られる電磁誘導を利用した機構で、できるだけ単純な機構で摩擦抵抗を減らせないかと検討しました。この方式は結局、電磁気的な相互作用の特性を素材から実験していかなくてはならず、あまりにも困難が多いため断念しました。

次に液体の表面張力を利用した方式。アイデアとしては電磁誘導方式と類似していて(言ってませんでしたが)、太陽から遠ざかるほど惑星の公転周期が遅くなるという事実を鑑みて、水面上に同心円状に惑星の数だけ輪っかを浮かべ、中心の輪を回し、それに引きずられて周囲の輪も回って行くというものでした。
2つの輪で実験した結果、確かに外側の輪は内側より遅く回るもののよく内側の輪と衝突して止まるし、中心の輪を速く回しても外側の輪の速度はそれほど変わらないことがわかりました。3つ以上になると、3つ目の輪より外側は動きませんでした・・
それでは水をゆっくりかき混ぜて全体的に緩やかな渦を造れば全部の輪が回るのでは?と思いましたが、各輪同士が衝突するのは目に見えており、この方式はあきらめました。

次にモビール方式。天井から竿と糸で吊り下げて、モーターで回転させては?
この方式はまだ考える余地があるのですが、結局各惑星の公転周期をスマートな形で実現するには歯車が必要だという結論に至りました。

ここまで来て、既に小型だとか衛星を含む全惑星模擬などの仕様は棚上げされていて、現実の前にロマンは飛散しかかっていました。
ここで少し現実的な道に戻ることにして、歯車方式を真面目に考えていく道に入って行きます。

(合成画像 ©NASA)

 

歯車方式にもいろいろ実現方法があります。
まず試したのがデアゴスティーニから販売されていた有名な「太陽系を作る」方式のタワー型太陽系儀。
この方式は歯車の数を少なくすることと構造が簡素にできることがメリットとなり、恐らく太陽系儀を製作しようと思った人がまず最初に取り組む方式だと思います。
結果として私がこの方式を採用しなかったのは、見た目が好きじゃなかったという身も蓋もない理由ですが、ロマンを大切にする限りここは譲れないものでした。

最終的にたどり着いたのがStellar Movementsの原形となる平面型太陽系儀です。
「タワー型太陽系儀」、「平面型太陽系儀」は私が勝手に付けた太陽系儀の分類ですが
平面型太陽系儀は英語圏でOrreryと呼ばれている伝統的な太陽系儀のうち、黄道十二星座が囲む正十二角柱内に歯車機構が内蔵され、天板上を惑星が公転し、その頭上を天球が囲っているものを指します。
この方式の良いところはタワー型に比べて太陽系儀の高さと幅を小さくできることです。
タワー型と平面型の本質的な違いは、各惑星の公転軸を支えるベアリングが同軸上にあるか同一平面上にあるかの違いです。
タワー型はベアリングが同軸上にあり、接地面積が小さいため動力が比較的小さいと考えられます。
一方、平面型はベアリングと歯車が平面上に置かれるため接地面積が大きく動力が比較的大きくなります。
このため平面型では仕様のうち、「時計のように電池駆動で1年間回り続けるもの」を削らざるを得なくなりました。・・まあ、性能は別にロマンではないし。


平面型太陽系儀に的を絞ったところで、次に各仕様のうち最初の「小型」の実現性を検討していきます。
検討に当たって重要なことは、机上検討ではいくらでも小型化することはできるけれども、
実際に製造する場合に、品質・信頼性・耐久性・入手性・価格等の要求を満足できなければ絵に描いた餅となってしまうことです。
まずはいったいどの程度の大きさがこれらの要求を満足できる最小サイズなのか?
いろいろな要素が絡み合っているため試行錯誤することになりますが、結論としては試作品をホームメイドして動作確認できる最小サイズがこの答えとなりました。
歯車をホームメイドするにはいくつか方法があるものの、レーザー加工機で切り出す方法を選択したことにより、歯車のモジュール(注1)0.6mmが基礎となりました。

こうして最初に造られたStellar Movementsは、海王星までの全8つの惑星と、各惑星の主要な衛星をそれぞれ1つずつ公転させるという意欲に満ちた試作品となりました。
この試作品第一号は確かに全ての惑星と衛星が動いたものの、良く何かに引っかかって止まったり、音がうるさかったり、見た目が歯車のギザギザした感じで良くなかったり、すぐに電池が上がったりで、まったく実用に耐えられるものではありませんでした。

見た目は後で何とかするにしても、動作に信頼性がなければロマンを感じている暇もないので、動作を不安定にしている原因を探ることにしました。
原因の一つ目は歯車の加工精度が悪いこと。二つ目は歯車にかかる負荷が不安定であることでした。
レーザー加工機で切り出している以上歯車の加工精度に限界はあり、その精度の悪い歯車を精密に動かさなくてはならない衛星駆動に使用しているという二重苦の状況にあって、衛星歯車に不安定な負荷がかかって動作を不安定にしているようでした。
ここで衛星を月だけにすることにしました。
これには抵抗がかなりあって、何か月か悩んだような気がするのですが、今になってはそう気にならなくなりました。・・少しロマン度が下がった気がするけれど、カクついた動きの太陽系よりかはマシだと思うようにしています。

(合成画像 ©NASA)

 

その後は改良に次ぐ改良、構造の見直しや機能の追加等を実施していき、現在のStellar Movementsの形に至ります。
この過程で特筆しておくべき事柄が2つあります。
一つ目は歯車を射出成型品としたことです。
やはりレーザー加工機で歯車を製作することは品質のばらつきや加工時間の関係で現実的でないため、歯車の金型製作費が車を買える値段だということを承知で射出成型とすることにしました。
幾つか個人に対して射出成型を扱ってくれる企業を当たりましたが、門前払いか怪しい人物扱いされて凹みました。
その中で東京江戸川区の秋東精工様は話を持っていった時から積極的に検討いただき、そのおかげでStellar Movements量産化において最もハードルの高かった歯車量産化に目途をつけることができました。
この場をお借りしてお礼を申し上げます。

二つ目は、Stellar Movementsのデザインの方向性です。
平面型太陽系儀とした時点で大まかなデザインは伝統的なOrreryとなることは決定していたのですが、実際に作ってみるとイマイチ。
機能美を生かし切れていないとか、なんかスカスカで余計な空間があり過ぎるとか
過去に製作したStellar Movementsで他人から評価をしてもらった点をつなぎ合わせて、どのようなデザインにするべきなのかを模索しました。
そのイマイチな原因は最近までよくわからなかったのですが、結局眺めていてもワクワクしないというかロマンが足りないのが原因だったのではないかと思っています。
その結果として機械式腕時計のような大胆に機構部を魅せる見せ方や昔の潜水艦の内部のようなスチームパンクの世界観、つまりは自分の好きなレトロな世界観と組み合わせることでなんとなくデザインの方向性を作ってきました。


以上、話が長くなりましたがStellar Movementsはこのような経緯で製作されてきた試行錯誤の結晶のような作品です。
これを書いている2019年8月22日段階ではまだ開発途上ですが、11月下旬の量産化までより動作の信頼性を高め、イマイチなデザイン部分を修正してまいります。
今しばらくお待ちくださいませ。


注1:歯車の大きさの単位